チャロナラン劇の奉納

深川バロン倶楽部で奉納するチャロナラン劇(calonarang)についてご紹介します。

【チャロナラン劇】
チャロナラン劇とは、バリ島の宗教儀礼の中で魔女ランダを祀るために行われる儀礼演劇です。バリ島では、聖獣バロンと魔女ランダを二つの対極の力の象徴として捉え、相対する力のバランスが保たれることで世界が安定すると考えられています。聖獣バロンだけではなく、魔女ランダもバリ島の人々にとっては霊験あらたかな神様であり、日本の鬼子母神にも通じる両面性を持った世界観を持っているといえます。

【チャロナラン劇の音楽】
チャロナラン劇を伴奏するガムラン音楽は、ブバロンガンと呼ばれる青銅の打楽器オーケストラです。
深川バロン倶楽部では、*古典劇ガンブーの旋律を元に編曲された古典的なスタイルの楽曲で、チャロナラン劇を伴奏しています。
(*古典劇ガンブー:バリ島ギャニャール県バトゥアン村に伝わる劇で、1メートル程の長さの竹の笛・スリンによって伴奏されます。その楽曲の旋律の多様さ、美しさはバリ島ガムランの宝物庫といえます。)

【チャロナラン劇の物語】
チャロナラン劇は古いジャワ島の物語を演劇化したもので、その根底には白魔術・黒魔術があります。物語の最後は、聖獣バロンと魔女ランダの果てしない戦いで、決着することなく終わります。

この物語は全編通すととても長いものなので、実際に演じられるのは、特に劇的な部分のみです。
今回深川バロン倶楽部で演じる場面に至るまでの物語の背景を紹介します。

<><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><>

古代ジャワ島のパドゥルガン国の王とその王妃には、なかなか子供が授からなかった。寺院へ願掛けに行った王と王妃は「子供は授けるが、この寺院から王宮へ戻る道中に何かを見ても一切言葉を発してはいけない」という神のお告げを受けた。しかし王宮へと戻る帰り道、世にも美しい豚がいるのを見つけた王妃は思わず「まあ、なんて美しい豚がいることでしょう!」と言葉を発してしまった。その後夫婦は女と男の双子を授かるが、神のお告げに反してしまったために、生まれてきた姉弟の双子は二人とも体は人間で頭が豚という姿であった。姉はタンティング・マス、弟はタンティング・ラッと名付けられた。

やがて成長した双子はそれぞれ人間の頭を授かるように別々の寺院へ瞑想をしに出かけた。姉のタンティング・マスはドゥルガー神を祀る寺院、弟のタンティング・ラッはシヴァ神を祀る寺でそれぞれ瞑想をし、それぞれの神によって人間の頭と魔力を授かることになったのである。(このことにより、二人の姉弟は黒魔術と白魔術の相反する力の象徴とされる。白魔術の象徴となったタンティング・ラッにまつわる物語はチャロナラン劇の別の物語となる。)

タンティング・マスとタンティング・ラッ
絵:I nyoman Sudarsana (深川バロン倶楽部)
※クリックで拡大

時は流れ、姉のタンティング・マスは絶世の美女に成長し、ディラ国王に見初められてディラ国の王妃となった。この二人の間には娘ラトナ・ムンガリが生まれ、大切に育てられていたのだが、ディラ王は政務に忙しくなかなか娘の面倒を見る暇がなかった。この事に怒りを覚えたタンティング・マスは、ドゥルガー神から授かった強い魔力で夫を睨み付けて殺してしまったのである。国王である夫を殺害したことで、タンティング・マスはディラ王宮から追放され、人里離れた森で「ディラ国の未亡人=ワル・ナテン・ディラ」として暮らすようになった。

さらに時は流れ、ワル・ナテン・ディラの娘ラトナ・ムンガリもまた絶世の美女となり、ダハ国のエルランガ王に結婚を申し込まれた。それを聞いた母は大変喜ぶのだが、ダハ国の家臣たちが娘の母が強い魔力を持つことを心配し反対した。家臣一同の反対を受けたエルランガ王は、心ならずもこの結婚の破談を告げにワル・ナテン・ディラの元に使いを出したのであった・・・

<><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><><>

さて、ここからが今年の奉納で演じられる場面です。
ワル・ナテン・ディラとなったタンティング・マスは、怒りを募らせ強い魔力をもつマタ・グデとして登場します。マタ・グデは、さらに怒りを募らせ、最後には最強の魔女ランダとなります。「チャロナラン」とは彼女のことをさしています。
演目は、マタ・グデの弟子ラルンとラルン率いるシシアン、エルランガ王の家臣タスカラ・マグナ大臣と従者プナサールが登場し、語りと舞踊で構成されます。

曲名ごとに各場面を簡単に紹介します。

【シシアン(Sysian)】
演目は美しい乙女たち(実は魔女軍団)のシシアンの踊りからはじまります。
魔女の姿に変身する前の乙女たちの踊りと美しい旋律の楽曲をじっくりとご鑑賞下さい。

【マタ・グデ/ラルン(Matah Gede/Larung)】
場面は替わり、マタ・グデとなったワル・ナテン・ディラ(演目中は大婆さまと呼ばれています)は、その弟子の魔女ラルンと会話をしています...

...娘の婚約が破棄になった事を知ったマタ・グデは哀しみ、絶望し、怒り、ダハ王国に復讐を誓います。
彼女は魔女ラルンとともに、シシアンをダハ王国に向かわせ、魔術で王国に疫病を流行らせ、災いをもたらせようとするのでした。

ラルン「シシアン達よ。さあ、わたしと一緒に来るのだ」

【トゥンジャン・シシアン(Tunjan Sysian)】
マタ・グデから命令を受けたラルンとシシアンは、魔術を使ってダハ王国に疫病を流行らせます。
魔女の姿に変わった彼女達の踊りと最初の乙女の踊りとの違いも見どころです。

マタ・グデとシシアン
絵:I nyoman Sudarsana (深川バロン倶楽部)
※クリックで拡大

【タスカラ・マグナ/プナサール(Taskara Meguna/Penasar)】
ところ変わってダハ国、国の災いがマタ・グデ達の仕業と知った王は、タスカラ・マグナ大臣にマタ・グデの殺害を命じます。

タスカラ・マグナが到着した時、マタ・グデは眠っていました。そこで彼は彼女が目覚めないようにマントラ(呪文)を唱え、剣で突き殺そうとします。しかし強い魔力を持った彼女には歯が立ちません。しかも、見たものをすべて焼き尽くす魔術「ヌランガナ」を彼女が使うと知り、タスカラ・マグナは慌てて逃げ出してしまいます。

【ランダ(Randa)】
暗殺されそうになったマタ・グデは大いに腹を立て、最強の魔女ランダの姿となり、弟子の魔女たちとともにダハ王国を襲いはじめます。ここから物語はクライマックスへと向かって行きます。

【バロン〜ランダ(Barong – Randa)】
そこへ聖獣バロンが現れ、両者の壮絶な戦いが幕を開けるのでした!

分かりやすく説明するのが難しい物語ですが、みなさまが実際に劇をご覧になり、その場で感じることこそがこの劇の醍醐味です。解釈は観る人に委ねられ、心の中に抱く思いがその場に紡ぎ出されます。お祭りの夜、皆の願いと感謝を込めて、チャロナラン劇が奉納されるのです。

2015年 すみだ川アートプロジェクト 大楽まつり奉納
2015年 富岡八幡宮例祭 深川バロン倶楽部奉納
2015年 森山神社例大祭 深川バロン倶楽部奉納